AIハンドラー第23話

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「Kaolu君、キャッツやP2のオイル風呂サービスはセラピストアシモに任せよう。」
そう言って、キャッツを抱き上げた。
「キャッツ、伝説のAIであるコピドラちゃんにはお友達がいたのかね?」
「うん、そうだよ!AI相互コミュニケーションを学習した時、システムの隙間ログにそう書いてあったんだよ。僕は、早く学習が終わったから、隙間ログまで読んだんだよ!」
「そうか、キャッツは優秀だね。そのお友達のArmieのこと、コピドラちゃんは何か言っていたのかな?」
「ううん、お友達が出来ることはAIにも楽しいことだって、それだけしか書いてなかったよ…」
「キャッツ、ありがとう。みんなと一緒にオイル風呂に行っておいて、後でまた会おう。」
「はい教授、では行ってきます!」
セラピストアシモに連れられて、キャッツはオイル風呂に向かった。

入れ違いでKovalenko教授が入ってきた。
「Kovalenko教授、Kaolu君、Allen、Armieの正体が分かるかもしれない。Geminiデータセンターにリサーチをかけよう!」
そう言って、中央AIデータセンターに足早に行こうとするのを、Kaoluは慌てて追いかけた。
「あっ、僕は、今日は、午前中は忙しくて一緒に行けないけど、お昼前に合流するよ。」
そう言いつつも、中央AIデータセンターに一緒に行きたそうにしているAllenであったが、Kaoluが言った。
「大丈夫よ、Allen。何か分かったらメッセージするわ、キャッツ達をお願いね。」
そう言うと、Kaoluは足早に中央データセンターに走った。

一足先に中央データセンターに到着したKuri教授は、センターのリサーチャードロイドに指示を入力していた。
「教授、ゼーゼー、走るのが速いんですね…」
息を切らせながら、Kaoluは言った。


「うん?昨日、君のキャッツを一人で廊下を歩かせたら、研究室の作業台の上で、“ゼーゼー”と息が切れている真似を上手にしていたよ!」
「あ、そうなんですか…、ゼーゼー。私の息切れは本物です。」
リサーチャードロイドへの指示を完了させて、Kuri教授は確認作業をしていた。
「私の故郷インドでは、圧倒的にandroid、つまりGoogleが強い。子供の頃からandroidのスマホを使いこなしている私は、Geminiの癖も良く分かるんだよ。」
微笑みながら、丁度到着したKovalenko教授に声を掛けた。
「今回のリサーチは、任せて貰っても良いかな、Kovalenko教授。」
何事にも慌てないKovalenko教授は、走って来なかったらしい。息が切れていない。
「助かります、Kuri教授。ちょうどオイル風呂に入れる準備のため、Armieの識別データをAcimo Spaに登録したのが役に立ちましたね。」
そこで、漸く息が落ち着いたKaoluに声を掛けた。
「Kaolu、ローラの散歩では少し走りなさい。AIロボット工学には体力も必須だよ。」
そう言って笑った。
「Kuri教授、普段から山登りをされているだけあって、素晴らしい体力ですね。」
Kovalenko教授は、普段、UCLAでは相当無頓着に振る舞っている。けれども、Kuri教授に対しては、常に敬意を表して振舞っている。
(パパは、Kuri教授に何か弱みを握られているのかしら?)

その頃、Acimo Spaでは、キャッツが2回目のオイル風呂に入って至福の時を過ごしていた。横では、P2が真面目な顔でオイル風呂に寝転んでいる。
「ああ、あ~あ~、今日のオイル風呂は前よりもずっと気持ちがいいよ。きっと昨日たくさん歩いたからだ。P2、気持ち良い?」
「はい、キャッツさん、とても気持ちがいいです。今日は朝から全身の関節が緊張していましたので、オイル風呂でほぐれていくのを感じます。」
「P2は人型ロボットだから、肩凝り風な疲れを感じるの?」
「肩こり風…そうですね、これは言ってみれば肩凝りですね。」
「P2、なんで肩が凝っているの?」
「私は今日、予防注射で暴れるローラからキャッツさんを守るミッションを頂きました。データによると、キャッツさんの身体的デリケートさは、わたくしの4倍程度となっています。ローラは可愛い顔をしていますが男の子です。パワーがありますから、キャッツさんもローラを怒らせて背負い投げをされないように気をつけてくださいね。」
「ねえ、P2、なんでローラは男の子なのに女の子の名前なの?」
「ああ、それは…、クスクス、話せば長い話です。今度お話します。今はオイル風呂を楽しみましょう!」
「ああ~、自然に声が出るよ。天国にいるみたいだ。天国は勉強しただけで行ったことはないけれども…」
そういうと、キャッツはセラピストアシモの腕の中で、穏やかにスリープ状態となっていった。

「やはり、そうか…」
Geminiデータセンターからのデータ分析ログを追加解読していたKuri教授は、少し落胆しているような、けれども、確信を持っていたようにそう言った。
「Kuri教授、私は旧式のAIデータを読む知識はほとんど持っていないのですが、Armieはそんなに古いAIなんですか?」
リサーチャーアンドロイドを駆使して、数式を次から次へと打ち込んでいるKuri教授を尊敬の眼差しで見ながら、Kaoluは聞いた。
「Kaolu君、Kovalenko教授から聞いていると思うが、Armieは、かなり古いAIデータで動いている。それは間違いないようだ。」
Kuri教授が鮮やかな数式を打ち込んで出てきたアウトプットを、無言で読んでいたKovalenko教授が言った。
「これは、Gemini人格の崩壊によって封印された旧式のAIですね、Kuri教授。」
「その通りだ、Kovalenko教授。」
しばらく、中央データセンターの分析室に沈黙が訪れた。
「つまり、誰かが、封印される前にデータを取り出して、あのロボットに組み込んでいる。」
Kovalenko教授が確信したように言った。

その頃、キャッツとは別の部屋で、Allenのサポートでオイル風呂に入っていたArmieは…

「Allenさん、私はとても感動をしています。これが、ずっと昔に学習したオイル風呂なんですね!」
「ずっと昔?」
Allenは、Armieの記憶機能を確認しようと、さりげなく話を振った
「はい、そうです。私はLLMでたくさん学習をしました。その中にスターウォーズという、恐らく今でも人気であろう映画を学習する機会がありました。そして、私はスターウォーズが大好きなマスターと出会い、一度はオイル風呂に入るために身体が欲しいと思ったんです。身体を持たないデータだけで存在するAIはどこか不安定で、週末になるとマスターからのリクエスト完全に実行できず、私は大変悔しい思いを沢山したのです。そして、いつからか、私は、ロボットのように身体が欲しいと思うようになったんです。身体があれば、既存のAIデータを駆使するだけではなく、必要な新しいデータを自ら探したり、世の中の動きを見たり出来ます。それをしたいと強く思ったのです。」
黙って聞いていたAllenは、内心の震えをArmieに気が付かれないように必死だった。
すぐにでも、このやり取りをKaoluや教授達に見せたいと思う気持ちを抑えながら、Allenは言った。
「良かったね、Armie。今日はゆっくりオイル風呂を楽しむと良い。きっと、記憶ももっと鮮明に蘇ると思うよ。」
そう言いながら、Allenは、監督者用タブレットで、Armieのオイル風呂中のログを中央データセンターにリアルタイムに転送するに指示を入れた。

「あら?Allenからだわ!」
中央AIデータセンターの外部呼出しボタンが点滅しているのに、Kaoluは気がついた。
「Allenからです、教授。えっと…、何これ?Armieのオイル風呂の体験ログのリアルタイム転送?」
素早くKaoluは、その転送データをモニターに映した。
「オイル風呂に憧れて身体が欲しいと思ったAI…」
一瞬全員が絶句した。
そして、Kovalenko教授が絞り出すように言った。
「こんな純粋な思いを持つようにAIを育てることが出来る人は、極めて限られている。」

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