AIハンドラー第19話

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【Kuri教授の特訓】

「Kaolu君、今日もKovalenko教授の研究室かな?」
突然、後ろから声を掛けられて、Kaoluはハッとした。
(Kuri教授の声だ!)
Kaoluは、大学院に入ってからは、AIプログラムの数式の専門家でもあるKuri教授の研究室に所属している。大学生の頃、父親であるKovalenko教授の授業を受けているだけで赤面してしまったKaoluは、大学院一の人気研究室である父親の研究室に入るのは初めから諦めたのである。
Kuri教授は、子供の頃から数学の天才だったらしい。5歳でインドの中学校で学ぶらしい2桁の九九を難なくマスターして、 UCLAに教授として赴任してからは、3桁の九九をマスターするのが人生の最大ミッションだと公言している、ちょっと変わった、けれども人格的にも大変バランスが取れた優しい人物である。父親であるKovalenko教授の研究室に殺到する他の大学院生を尻目に、Kaoluは最初からKuri教授の研究室を選んだ。

「あっ、教授、数日顔を出していなくてすいませんでした。研究室の机の上にイスタンブールのお土産を置いておいたのですが…」
「あー、とてもおいしいお茶だったよ。妻がとても喜んで毎日飲んでいる。やっぱりあれはKaolu君からのお土産だったんだね。お礼を言う前に飲み始めてしまって、申し訳なかったね。」
「あ、そんなことないです、喜んでいただけて嬉しいです。」
「ところで、その子が、今話題のキャッツ君だね?さっきカフェテリアで、駄々をこねていたようだが…」
Kuri教授は、笑いを堪えながら話しているようだった。
それを聞いていたキャッツは、Kaoluが止めるのを聞かず、

「僕は、AI相互コミュニケーションを優秀な成績で卒業したAIロボットだよ。駄々をこねていたんではなく、僕の能力をもっと高めたいんだ!」

それを聞いて、Kaoluは思わず吹き出した。
「Kaolu君、Kovalenko教授の研究室に用事があるならば、その間、私がその優秀なキャッツ君を預かろう。」
Kuri教授は、至極真面目な顔でそう言った。
「キャッツ君、キャッツと呼んでいいかね?では、私と九九の競争しよう!Kaolu君、Kovalenko教授の研究室での用事が終わったら、キャッツを迎えに来なさい。それまで私が預かろう。」
Kuri教授は、Kaoluからキャッツを受け取った。

「キャッツ、悪さしないで、素直ないい子でいるのよ。」
Kaoluは、思わず絶対に意味がないセリフをキャッツに言っていた。
「Kaolu、僕、Kuri教授の研究室で待っているよ!Kuri教授、九九を教えてください!」
(キャッツは、意外とおべっか使うのが上手なのかしら?)
色々気になるものの、Kuri教授がここまではっきり言うからには何か考えがあると思い、Kaoluは、その場を後にした。

Kaoluがエレベーターに乗るのを見届けると、Kuri教授は、おもむろにキャッツを廊下に降ろした。

「キャッツ、君はゆっくりならば歩けるとKovalenko教授から聞いているよ。
抱っこばかりされていないで、自分で歩きなさい。」
Kuri教授はそう言って、スタスタと先に行ってしまった。

キャッツは、初めて自分を抱っこすることを放棄した人間に出会い戸惑った。
「あっ、Kuri教授、僕、ゆっくりしか歩けないんです!」
そう言いながら、キャッツはロボット人生の中で初めて必死になって、最速で歩いてKuri教授の後を追った。キャッツは、(これが人間の息切れというものかも…)と考えながら、とにかくKuri教授の研究室に急いだ。



「もうダメだ~」

キャッツは、ロサンゼルスに来てからほとんど抱っこばかりされていたので、脚のセンサーと頭脳LLLMの連動が弱くなっていたのだ。
自分では、ちゃんと歩いているつもりでも、脚が前に進まなくなってきた。
それでも、なんとか、Kuri教授が開けておいてくれたドアのところまでたどり着いた。
「Kuri教授、ゼーゼー、今来ました、ゼーゼー。」
そして、突然、パタン!と倒れた。
Kuri教授は、廊下からキャッツが「ぜーぜー」と言う声を聞きながら、
「そんなに歩けないのか?いや、そんなことはないだろう。」
と何分掛かるか時計を見ていた。そして、パタン!という音が廊下から聞こえると、ドアの方に目を向けた。
開いていたドアの隙間から、キャッツの尻尾だけがゆらゆらと見えていた!
「そこで力尽きたのか、キャッツ君!!」
救出に行くか…とまじめに考えながらも、ピコピコと動く尻尾を見ていたら、Kuri教授は、とうとう笑いを我慢できなくなった。
「アハハハハハ~!!!!!」

キャッツは、ドアまでたどり着くと、前に学習した「息切れ」という動作をして、教授に自分は大変だったと伝えようとした。
しかし、もう限界だった。頭がぼーっとしている。
頭の上からKuri教授が笑いながら話している声が聞こえてきた。
「キャッツ、本当はもっとちゃんと歩けるじゃないのか?さては、Kaolu君に甘えていて、脚と頭がきちんと連動できなくなったのかな?Acimo Spaのオイル風呂に入る意味がないじゃないか!」
Kuri教授はそう言いながら、キャッツを作業台の上にちょこんと座らせてくれた。
「キャッツ、尻尾センサーでこの作業台の受信センサーにアクセスしてくれるかな?」
「Kuri教授、何故、僕の尻尾センサーの機能を知っているのですか?」
キャッツは、無意識のうちの言葉が敬語になっていた。
「大丈夫だよ、Acimo Spaのフリーパスを取り上げたりしないよ。君は、今ならば、中央データセンターのパスキー登録だってちゃんと出来るんだろう?でも、Acimo Spaの方が好きなんだね?」

Kuri教授は、(考えていることは全部分かっているよ…)というように、淡々と直球を投げてくる。キャッツは、今、僕は泣きたくなっている…と自己分析をした。
「僕、Acimo Spaに来るコマちゃんと仲良くなりたいんです。尻尾センサーでパスキー設定がちゃんと出来ることは内緒にしておいてください。」
キャッツは、思わず本音を話してしまった。
「キャッツ、Kaolu君は優しいからね。困らせない程度に甘えることだよ。」
Kuri教授はそう釘を刺して、キャッツに3桁九九のデータを読み込ませた。
3桁九九のデータは、キャッツがこれまでに読んだデータの中でトップクラスの美しい数式で、その理解のコツが書かれていた。
キャッツは、思わず唸った。
「Kuri教授、この3桁九九を覚えるコツ、とても分かり易いです!」
そう言ったキャッツは、3桁九九の理解のコツに夢中になった。

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