【これまでのお話】
イスタンブールの高級ホテルで“お客様エージェント”として働いていたキャッツは、ときどき気まぐれでサボりつつも、不思議と人の心を癒してしまう特別なロボットだった。
ある日、ホテルを訪れたUCLAの大学院生・Kaoluと出会い、キャッツの“自我の強さ”と“自由奔放さ”に魅力を感じたKaoluは、父であるKovakenko教授が作ったキャッツをロサンゼルスへ連れて帰る決断をする。
LAでの新しい生活では、新しく家族になった犬のローラに密かに競争心を抱きながらも、少しずつ仲良くなっていくキャッツ。
こうしてキャッツは、パパであるKovakenko教授、Kaolu、P2、そしてローラに囲まれながら、UCLAで“自分らしさ”を開花させているのであった。
【お兄ちゃんのプライド】
UCLAの月曜日は朝から賑やかだ。
AIロボット工学部だけではなく、ほぼすべての学部で、夏休み中も大学院の学生が登校しているのだ。
中央AIデータセンターの制限区域以外は基本的に自由な出入りが許されたキャッツは、今日から、Acimo Spaに年間パスが登録された。それをキャッツに話したら、キャッツは、年間パスを映画で見たように、首に掛けると言って聞かない。
「キャッツ、AIロボットはね、パスはデータとして読み込むのよ。」
「僕は、カードを首に掛けたいんだよ!」
キャッツは、普通のAIロボットと違い自我意識がかなり強い。一旦言い出したら聞かないのだ。しょうがないので、Kaoluは、キャッツのために年間パスデータを小さなパスケースに加工することにした。
年間パスのデータをチップ内蔵の小さなカードに読み込ませて短い紐に通せば、取り敢えずキャッツは納得するだろう。
カフェテリアの椅子に座り、Kaoluは黙々と作業をしていた。
「出来たわ!キャッツ、パスが出来たわよ~」
先ほどまで、向かいの椅子に大人しく座っていたはずのキャッツがいない。
カフェテリアの中を見回すと、キャッツがP2に連れられて、Amazonが提供するAIロボット用のAmazon AIショッピングマシーンの前で騒いでいるのが見えた。
「だからP2、僕の尻尾センサーをエンハンスするためにこの部材を買いたいんだ!」
「キャッツさん、エンハンスとは何をエンハンスするのですか?」
「う~ん、よく分かんないけど、とにかく“enhance”するの!」
「分かりました。 Enhance用の部材は、アマゾンAIショッピングは無料提供はしていませんので、 Copilotペイが必要になります。Kaoluさんに了解を求めましょう。」
「なんで?P2はスーパーマーケットの買い物をKaoluに任されていて、KaoluのCopilotペイを自由に使っているじゃないか~」
「キャッツさん、スーパーマーケットでの買い物は日用品の買い物です。キャッツさんの尻尾センサーenhance部材は日用品ではありません。ですから、Kaoluさんの了解が必要です。」

そこまで言われてもキャッツは一歩も引かない。
「コパイに聞いてよ、いくら残高があるか…」
人型ロボットと、一見猫に見えるロボットとの会話があまりにも面白かったらしく、周りには人だかりができていた。
「キャッツ、キャッツの尻尾センサーはもう世界一立派なのよ。なぜエンハンスが必要なの?」
Kaoluは、笑いを堪えながらキャッツに言った。
「Kaolu、僕はお兄ちゃんなんだよ、だからもっと尻尾センサーが立派にならないといけないんだ!」
(あっ、そういうことね。基本性格が子猫だからこういう発想になるんだわ)
「キャッツ、尻尾センサーのエンハンス部材は高いのよ。私のCopilotペイでは足りないわ。パパに頼みなさい!」
AIロボット達とひとりの人間の会話を、固唾を飲んで聞いていた周囲の人々は、Kaoluのクロージングに声を出して笑った。
一人だけ、笑わずに冷静な目つきでこのやりとりを聞いていた人がいた、Kuri教授だ。
Kuri教授は、Kaoluのクロージングを聞き届けて、ゆっくりカフェテリアから出て行った。
「Kaolu、僕の名前はキャッツだよ!」
どうにかエンハンス部材を買うことを、キャッツに諦めさせたKaoluは、キャッツの首にAcimo Spaの年間パスを掛けてあげた。
キャッツは嬉しそうに言ったのだ。
「僕の名前はキャッツだよ!」

「キャッツ、そんなことずっと前から知っているわよ、どうしたの、急に?」
「だから、日本語のカタカナで“キャッツ”なんだよ。カッコいい文字でしょう?」
(えっ?日本語なの?)
Kaoluは、ふと思い出した。キャッツの充電ベースの裏目にきれいな模様が描いてあった。あれは、日本語だったのかもしれない。
「キャッツ、キャッツの英語のスペリングは?」
「うん、決まっていないよ。パパが決めなかったんだ!後から決めようって!」
(そんな~、随分いい加減な…)
Kovalenko教授は、プライベートでは飛んでもなく抜けている所がある。AIロボットの政府機関への登録は、ロボット名がローマ字であることを要求していない。だから、中国語やスワヒリ語の名前を持つAIロボットも存在するのだ。
(なんで、日本語なんだろう?)
Kaoluは、パパに聞かないと!と、意を決してKovalenko教授の研究室に急いだ。

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