AIハンドラー 第16話

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【Armie目覚める!】

「カエ、ローラとボール遊びをして、ローラが飽きたらKovalenko教授の研究室にローラとP2と一緒に来るんだよ!」
Allenは、カエに声を掛けた。
その瞬間、ローラはボールを投げだしてAllenとKaoluのそばに走り寄った。
「あらっ?ローラも研究室に行くの?ボール遊びは?」
カエを相手にかなり運動したらしい。ローラは、息をハーハーしている。
「そろそろ、おやつが欲しいのかな?」
Kovalenko教授の研究室には、子供の頃のローラのあまりの可愛らしさに、ファンになった学生たちが、「ローラちゃんにあげてくださいね」と置いていったおやつが、今でも沢山ある。そのことをローラは知っているのだ。

「やっぱり、AIロボットよりも犬の方が賢いかもよ、Allen。」
ボールを咥えて固まっていた先ほどのキャッツの姿を思い出して、Kaoluは言った。
「いや、キャッツは、多くの設定レイヤーの中に矛盾を抱えている。その矛盾を調整する学習行動に、生活の中で自然に直面するから、時々想定外のことをするんだよ。その矛盾を克服できるから、不服従行動が出来るのだろうし、伸びしろは僕たちの想定を超えているはずだよ。」
「確かにそうだけど、犬はそんな面倒なプロセスを必要としないわよ。特にローラはかなり賢いわ。」
Kaoluは基本的に犬を盲目的に愛している。特にローラは、子犬の時から丹精込めて自分で育てたので、親馬鹿ならぬ飼主馬鹿なのだ。
ローラは、ゴールデンリトリバーと柴犬という性格が相反する犬種の良い所取りが出来ている。これは、確かに、ローラという個体の能力に依存した個性であり、この個性はAIロボットには期待できないのだ。最近、KaoluはAIロボットの学習の難しさを痛感しているので、この事実を突き付けられて、密かに悩んでいる。

ローラはAllenとKaoluの会話を聞きながら、「研究室」という単語に反応して尻尾を大きく振った。
ローラにとって研究室とは…

“おやつがある場所”
“パパが褒めてくれる場所”
“自分が特別扱いされる場所”


なのだ。Kaoluは、ローラのその“理解の深さ”に改めて感心した。
(ローラは、言葉の意味を“経験”で覚える。AIロボットは、言葉の意味を“データ”で覚える。この差は、埋まらないのかもしれない……)
そんなKaoluの胸の奥の不安をよそに、ローラはAllenの足元に座り、「早く行こう」と言わんばかりに2人を見上げている。
Allenは笑ってローラの頭を撫でた。
「ローラは本当に賢いね。キャッツよりも、P2よりも、“状況判断”が早い。」
「そうなのよ。ローラは“意味”を理解するの。AIロボットは“情報”を処理する。この差は大きいわ。」

Kaoluがそう言いながら、研究室のドアを開けた。
作業台の上には昨日と同じように、沈黙しているC3POことArmieがいた。
その時、Armieは、作業台の上でゆっくりと立ち上がった。
「……Kaoluさん、こんにちは。ローラの足音が聞こえました。ローラも一緒ですね?」
Kaoluは思わず息を呑んだ。
(えっ、C3PO…じゃない、Armieが“ローラの足音”を識別した?そんな機能入っていないよね?)
Allenも驚いて目を見開いた。
「C3PO…じゃないArmie、何故ローラと一緒だと分かるのかな?いや、違うな、この犬が何故ローラだと分かるのかな?」
Armieは、ぎこちない動作でローラの方を向いた。
「ローラは…Kaoluさんの家で、私が初めて“安心”を感じた存在です。」
Kaoluは思わずローラを見た。
ローラは、そのやり取りを聞いていたかのように、まるで自分がするべきことは分かっています!というように、ゆっくりとArmieのそばに寄って行った。
そして…
ローラはおもむろに、Armieを舐め始めたのだ。

「えっ???やだ、ローラ止めなさい!パパが潤滑油を塗っているはずよ~、いや、パパが使っている潤滑油は家庭用だから舐めても大丈夫だったんだわ。」
Kaoluは、思わず頭が混乱した。
ローラは、「安心してくださいね」と言うように、尻尾をゆっくり振りながら、Armieを暫く舐めた後、KaoluとAllenに向き直った。
「そうか、私がC3POを買って来て、寝室に放っておいた時、なんかローラが遊んでいたから、ローラがC3POを壊すと思って納戸に移したのよ。」
「ローラに舐められて、実はC3POはスリープ状態でも外部認知をしていたんだわ。」
Kaoluは、Armieをそっと床の上に降ろした。
「ローラ、このC3POはArmieというのよ。暫く会っていなかったけどローラは覚えているのね?」
Kaoluは、かがみこんでローラに話しかけた。
ローラは、「そうなんです、久しぶりなんです!」というように、尻尾を振り続けている。
「これが、人類と3000年以上生活を共にした犬という動物の凄さだな…」
Allenは、絞り出すような声で言った。

その時、研究室の奥から髪の毛がぼさぼさのKovalenko教授が顔を出した。
「Kaolu、Allen、やはり犬は賢いな!」
「パパ?居たなら言ってよ!」
「いや、お前たちが騒ぐ声で起きたんだよ。」
笑いながら、Kovalenko教授はローラの頭を優しく撫でた。
「ローラ、Armieを完全に起こす必要があるんだ、協力してくれるかな?」
それを聞いたローラは、「分かっているよ!」と言わんばかりに、尻尾をひときわ大きく振ったのだった。

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