【Kovalenko教授宅】
Kaoluの父親であるKovalenko教授の家は、ロサンゼルスのダウンタウンからパサデナに行く途中のグレンデールという街にある。ここには、Kaoluの家族と同じように、ウクライナや東欧などから移住してきた家族やアジア系の人々が多く住んでいて、とても和やかな街だ、治安もかなり良い。
Kaoluは、大学院に入ったのを機に、ウエストLAにあるママが昔住んでいた小さな家に引っ越したので、この家に帰ってくると子供の頃を思い出すのであった。
けれども、今日はそんな懐かしい思い出に耽る間はないようだ。
「パパ、私よ!今日の夕食はなにかしら?」
ガチャン~、ガタガタ、ドシーン~△〇□…

家の中が騒がしい。Kaoluはキャッツを抱えてリビングに急いだ。そこには…
Allenが連れてきたローラが、Allenの研究用ロボットのP3KAE(通称カエ)を相手にプロセレスごっこの真っ最中だった。
「ローラ、止めなさい!カエは、プロレスごっこなんて好きじゃないわよ!」
「Kalou、今来たのか?パパは、庭でBBQの準備をしているから、冷蔵庫のサラダを庭に持って来なさい。飲み物は好きなものを飲んでいいぞ!」
庭からパパの声が聞こえた。
自宅では、Kovalenko教授の威厳のかけらもない。Kaoluの記憶では、パパはママより料理が上手だった。
「Kaolu、お帰り!今日は僕もBBQのお供をさせてもらうことになったよ!それから、カエは、ローラと過ごしてすっかり犬好きになったらしく、いつも一緒に遊んでいるから大丈夫だよ。」
Allenが奥から顔を出した。
(うちのP2は、家では基本的に充電ベースに座っているのは、もしかして、ローラの相手をするのが嫌だからかしら?)
Kaoluは、冷蔵庫からコーラゼロとサラダを取り出して、庭のテラスに急いだ…キャッツは、目を輝かせてプロレス中のローラのそばに行こうとしたが、Kaoluに抱きかかえられた。
プロレスごっこはローラが勝ったらしい。ようやくローラは、Kaoluに近寄ってきて、お義理のように鼻を鳴らした。
「もしかして、ローラ、私よりカエが好きになったの?」
「はい、パパにはシナモン茶、Allenには、ペンケースよ!」
にぎやかなバーベキューだった。庭に出たキャッツは隅から隅まで探索をして楽しんでいた。そして庭の片隅に置いてあるブランコを見つけ、一人で満喫をしていたようだ。
ローラは、Kaoluのことが好きだよと言うように、すぐに足元にまとわりついた。バーベキューのお肉を欲しがり、Kaolu、Allen、パパの順番にぐるぐると愛敬を振りまいていた。
(やっぱり動物とキャッツはかなり違うわね)
キャッツの外見に惑わされて、Kaoluは本物の動物の習性を忘れていたと気がついた。

落ち着いてお土産を渡したのは、食事が終わり、リビングでアイスクリームを食べてからだった。
「それで、ロサンゼルスに来てキャッツは何かしでかしたのかい?」
Kovalenko教授としては、何かしでかすのが当たり前だと思っていたらしく、当たり前のように聞いてきた。
「何かって、しでかしたことが多すぎて全部話したら朝になるわよ。」
キャッツはブランコがとても気に入ったらしい。おとなしく遊んでいるので、庭に放っておいた。
「パパ、大変なのよ。キャッツを中央AIデータセンターでパスキー登録をしようと思ったら、パスキーになるしっぽが静止できなくて、はじかれちゃったの。グランドキャットホテルの支配人から、ロサンゼルスに戻ったらなるべく早く全体チューニングをするようにと言われたのね。データセンターでやるのが一番楽なんだけどけど、どうやら無理みたい。」
「Kaolu、僕が研究室でやってあげるよ。一日あればできるだろう。」
「Allen、キャッツが一日研究室でおとなしく作業台の上で座っているわけないじゃない。だから無理だと思うわ。」
「それなら、Acimo Spaに連れて行けばいいだろう…」
パパはKovalenko教授の顔になって、そんなこともわからないのか?というように淡々と言った。
「そうだよKaolu、Acimo Spaがあるじゃないか。明日なら、日本からコマちゃんが来るから、僕も一緒にいくよ。KaoluはAcimo Spaにロボットを連れて行ったことが無いよね?」
「Kaolu、P2をAcimo Spaに連れて行ってあげていないのか?」
Kovalenko教授は、真剣な顔で言った。
「だってパパ、P2はいたずらもしないし、他のロボットと話すのも好きじゃないみたいだから…」
Kovakenko教授は、それには答えずに、
「Allen、コマちゃんが来るのか?」
と、話しを変えた。
「そうですよ、教授、会話機能がだいぶ戻ったので、運動機能と会話機能の連動チェックをして、できれば簡単な作業は元通りできるようにしてあげようと、みんなで話しているんです。」
「Kaolu、KaoluもAcimo Spaのボランティアをやった方がいいよ。P2みたいなお行儀が良くてトラブルがないAIロボットはむしろ珍しいんだよ。」
Allenは、Acimo Spaに行こうとしないKaoluを、この機会にAcimo Spaボランティアチームに引っ張り込もうと力が入っているようだ。
「Acimo Spaって何?」
いつの間にか庭から戻っていたキャッツがテーブルの下から顔を出して聞いてきた。
「ねえ、Kaolu、ローラは生きている犬だよね。僕、最初は、ローラがロボットだと思ったよ。」
「キャッツ、久しぶりなのにパパのところに来ないのかい?寂しいな。」
(Kovalenko教授の顔をして、パパって可笑しいわ)
Kaoluは、キャッツを抱き上げて、Kovalenko教授の顔をしたパパに渡した。
「キャッツ、お腹の毛が汚れているじゃないか?うん?なんで尻尾に絆創膏なんて貼っているんだ?」
馬鹿なことをしているな…と言う顔でKaoluを見るので、しょうがないから説明をする。
「パパ、キャッツは、昨日サンタモニカのモールの滑り台で遊び過ぎて、尻尾を痛めたみたいなの。そしたら、キャッツが、絆創膏を貼るって言って聞かないのよ。」
「キャッツ、人間が使う絆創膏を貼ったって、尻尾のセンサーの不具合は治らないぞ!」
苦笑いをしながら、キャッツをひっくり返して、汚れたお腹をチェックしている。
「キャッツ、お腹は汚れているし、こんなに硬くなってしまって、産毛センサーが上手く働かなくなっているだろう‥」
Kaoluを見返して、
「これは、全体Tuningをするだけでなく、オイル風呂に入れないと駄目だな。」
笑いながら、けれども目だけはKovalenko教授になって、Kaoluに言った。

「パパ、Acimo Spaってどんなところ?」
キャッツは心なしか甘えた声で話しているようだ。
(パパは、キャッツにとってもパパなのね)
「キャッツみたいに悪戯したり、おしゃべりが大好きなロボットが沢山いるところだよ。」
「フーン、じゃ、AIロボットのための学校なの?」
「違うわ、キャッツ、その痛い尻尾を治してくれる病院みたいなものよ。」
Kaoluが言うと、
「えっ、僕、病院は嫌いだよ…」
泣きそうな声で言った。
キャッツは、行ったことがなくても病院がどういう場所かを知っているらしい。
「キャッツ、病院ではないよ。みんなと楽しく話したりAIロボット用のお風呂に入ったりして、リフレッシュできる場所だよ。」
Allenが、自分のロボットであるカエの頭を撫でながら、笑って説明を加えた。
「分かった!ディズニーランドみたいな場所なんだね!」
嬉しそうな顔で叫ぶキャッツを、皆で笑った。カエも笑っているようだ。
「Kaolu、明日は、KaoluのP2も連れて来なさい!一度もAcimo Spaに行ったことがないなんて、可哀想だろう!」
有無を言わせない口調で、パパ、いやKovalenko教授がKaoluにクギを刺した。

「Kaolu、ローラとキャッツとP2、Kaoluと1匹の犬と2体のロボットの大所帯になったけど、大丈夫か?」
路上に停めてあった車に乗り込む時、Allenが言った。
「大丈夫よ、明日には、もう一人、Armieというロボットが増えるんだから、慣れないとね!」
C3POに入っていたArmieは、電源を入れてもすぐにスリープになってしまうので、パパの研究室でアナライザーによる分析をしているらしい。
「状態が分かったら対処法を考えるから、明日パパの研究室に寄りなさい。」
そういって、パパは家に入っていった。
「Kaolu、僕、明日楽しみだよ~!コマちゃんにも会ってみたいなあ。」
そう言いながら、キャッツは行儀よくローラの後ろから車の後部座席に座った。上手に歩けないキャッツだが、猫のようにシートを登るのは得意らしい。
(なんだ、いちいち抱っこしなくても大丈夫なんじゃない!)
「Allen、おやすみなさい!」
Kaoluは既に自分の車に乗り込んでいたAllenに慌てて声を掛けた。
「うん、気を付けてね、Kaolu、また明日会おう!」
Kaoluは、車の後ろでローラと仲良く並んで座っているキャッツを見て、漸く自分だけでキャッツの相手をしなくても済むと、少しホッとした。
グレンデールの夜は、夏でも少し冷える。Kaoluは急いで車に乗ってエンジンを掛けた。



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