【Acimo Spa】
「Kaolu、起きてよ。もう7時半だよ!」
「あら、 7時に起こしてって言わなかったっけ?」
Kaoluはキャッツの声で起こされた。
「僕、聞いてないよ。でも、ローラは6時には起きていたみたい。お庭に行って、おしっこしていたよ!」
(そうだ、私、P2に朝の目覚まし頼むのを忘れていたんだわ)
Kaoluは慌てて起きて、P2が座っている充電ベースに様子を見に行った。
(昨晩は、「Kaoluさん、おかえりなさい。ガレージの前にスーパーマーケットからの定期便が届いていました。」というのを聞いて、冷蔵庫に牛乳や果物を入れて、私そのまま寝ちゃったんだ…)
「P2、おはよう、元気?」
P2は、コーヒーを沸かし終えて、庭で遊んでいたローラをリビングに入れているところだった。
「おはようございます、Kaoluさん、今日の予定をコパイから聞いています。私もAcimo Spaに行けるのでしょうか?とても嬉しいです。」
(えっ、P2ってAcimo Spaに行きたかったの?)
Kaoluは、ハッとしてキッチンの時計を見た。
(まずい、遅刻だわ!コーヒーはAcimo Spaで買おう)
「P2、そこら辺にある昨日届いたパンを一つ持ってきて!キャッツ、出かけるわよ、ローラはお留守番ね、いい子にしていてね!」
Kaoluの朝は、イスタンブールから帰ってきて一変した。なかなか、賑やかな朝になった。
UCLAキャンパスの広い芝生を越えた先に、ガラスと白い曲線で構成された巨大な建物が現れる。

―Acimo Spa ―
それは、人間ではなくAIロボットのためのメンテナンスと交流の施設だった。
昼間は太陽光を反射して柔らかく輝き、夜になると、建物の外周をなぞるように青いラインライトが静かに走る。
正面の自動ドアは、人間用ではなくロボットID認証専用。
入り口には、アシモ、アトム、ペッパー君と歴史的に有名な初期のロボット三体が並び、
来訪するロボットたちを迎えている。
建物の壁面には、スポンサー企業のロゴが控えめに配置されていた。
SBG、HONDA、TOYOTA、KOMATSU
けれども、ここの主役は企業ではない。
あくまで、ここを訪れるAIロボットたちなのだ。
土曜日の朝は、Acimo Spaは来客も多い。もちろん、人間は付添いで、ゲストはAIロボット達だ。常連のロボット達が自由に歩いて、知り合いや友達のロボットに挨拶をしている。ここは、まさに未来の風景が広がっている。
「Kaolu、こっちだよ!そっちは来客用の駐車場で、今日は混むと思うから、こっちに車を移動して!」
先に着いていたらしいAllenが、来客用駐車場に車を置こうとしたKaoluに声をかけた。
Allenの横にはカエがいる、カエはP2を見つけて、友好センサーが反応しているようだ。
「キャッツ、行くわよ、ここがAcimo Spa、少しだけなら、はしゃいでもいいわよ。」
【コマちゃん】

コマちゃんは、Acimo Spaのスポンサーでもある日本の重機メーカーの最新鋭AIミニ掘削機だ。コマちゃんと言う名前は、このメーカーの研究所の技術者が自然発生的に呼ぶようになった名前だと聞いている。けれどもロボット本人がこの名前をとても気に入って、いまでは掘削本体に名前が入っている。その横には可愛らしいリボンの絵、コマちゃんは女の子だそうだ。
この重機メーカーは、 UCLA AIロボット工学部と産業ロボットの共同開発を行なっていて、定期的に日本から技術メンバーがやってくる。コマちゃんは、このタイミングに、いつも一緒にAcimo Spaに来るのだ。
ギギギギギギ…とコマちゃんがやってきた。
「おはようございます、Allen、カエちゃん」
コマちゃんは話すのがぎこちない。ある事件に巻き込まれ、言語モデルを改ざんされたからである。そして、言語モデルと身体動作モデルの連動が上手くいかなくなり、現場の作業ができなくなってしまった。
そして、
「産業ロボットであってもAcimo Spaでリハビリができるのではないか?」
というUCLA AIロボット工学部の教授会の意向により、Acimo Spa初めての産業ロボットのユーザーとなったのである。
「Allen、Kovalenko…教授とハズウェル教授…はいますか?」
「ラボの所長さんが、石川県名産の柴舟を持たせてくれました。たくさん…あるので、皆さんで食べてください!と…渡すようにことづかりました。」
コマちゃんは、アームにお菓子を大事そうに抱えている。その姿は、今や、Acimo Spaの風物詩らしい。みんなが微笑んで見ている。
「やあ、コマちゃん、よく来たね!元気そうだ!今日は楽しみにしていたダンスヒーリング療法を受けられるよ!」
「Allen、私は足が短いので、…ダンスが上手に踊れないかもしれませんが、とても楽しみなんです。みんなと一緒に踊れたら、Allen…ぜひ写真を撮ってくださいね…」
コマちゃんのセンサーが弾んでいる、本当に楽しそうだ。
「そうだコマちゃん、今日は、そのダンスに彗星のように現れたスターがいるよ!キャッツ、こっちにおいで!」
カエと遊んでいたキャッツは、Allenに呼ばれてちょこちょことやってきた。
「Allen、Kaoluったら寝坊したんだよ!」
「キャッツ、人間には時差ボケというものがあるんだよ。Kaoluは疲れが溜まっていたんだろう。キャッツも新しい環境で大変だろうから、今日は思いっきり楽しむといい!」
Allenに優しく言われて、キャッツの尻尾が揺れた。
「あっ、もしかしたら、この子がコマちゃん?」
キャッツは察しが良い。フィジカルAIに付随する性格基本設定である子猫アルゴリズムが効いているのだと思われる。
「僕、キャッツだよ、イスタンブールから来たんだ!」
キャッツは、『知らない人には出身地を言って挨拶をするように』という学習を思い出しながら言った。
「キャッツ、今日はキャッツも一緒にダンスをしよう!」
Allenが言った。
「ダンス!僕、得意なんだよ、ダンス、頑張るよ!」
目を輝かせたキャッツが飛び跳ねて、着地でバランスを崩して、見事にこけた。
Acimo SpaでキャッツとP2の利用パスを登録していたKaoluが戻ってきた。
「キャッツ、P2、利用登録を済ませたわよ。」
「あら、あれ、この子ね。初めましてコマちゃん!私はKaoluよ!」
「こんにちは…、とても賑やかで嬉しいです…。」
コマちゃんはそう言って、少しギシギシ言いながらAcimo Spaの入り口に向かっていった。
「コマちゃん、僕も一緒に行くよ。その柴舟っていうお菓子、僕にも1個ちょうだい!」
お菓子は食べられないのに、キャッツはお菓子には異常に興味を示す。
「キャッツ、お菓子は人間用なの!」
慌ててキャッツを抱き上げたKaoluは、気持ちがウキウキしてきた。
よく晴れた土曜日のUCLAは、朝からとても賑やかだ。

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