【ローラの弱点】
翌日の朝、Kaoluは、目覚ましが鳴る前に起きた。
そっとリビングを覗くと、P2が鏡に向かってダンスの練習をしていた。
ローラは、P2がいつも通り朝6時に開けた窓から外に出て行って、ご機嫌に遊んでいるようだ。
(あら、キャッツは?)
いつもはローラの後ろに付いて行くか、P2のダンスを面白そうに眺めているのに、今日は姿が見えない。
「キャッツ!どこに居るの?いたずらはだめよ!」
ふとキッチンを見ると、キャッツが普段は使わないカプセル式コーヒーマシンでコーヒーを淹れていた。キッチンの上はこぼれたコーヒーで汚くなっているが、キャッツは真剣だ。

「あら、キャッツがコーヒーを淹れたの?」
「あ、Kaolu、おはよう、P2はダンスに夢中みたいだから、僕がコーヒーを作ろうと思って…」
(キャッツが少し変ったわ)
しかし、今日はとにかく主役はローラだ。今はキャッツに構っている場合ではない。
「ローラ、おはよう!朝ごはんは食べたのかな?」
リビングには、少しだけごはんの残りがあるローラのお皿がある。ローラはご飯を食べるとき必ず少し残す。そして一人になると、残りをこっそり食べるのだ。
Kaoluは、キャッツが淹れてくれたコーヒーとパンで慌ただしく朝食を食べた。
出かける準備が終わった時、玄関のチャイムが鳴った
「Kaolu、僕だよ。もう準備はできたかな?」
昨日の夕方、今日のローラの予防接種の予定を思い出すと、すぐにAllenに連絡を入れた。そして、昨日はKaoluの車をAllenに乗って帰ってもらったのだ。
「Allen、おはよう、カエも一緒かしら?」
Kaoluは名残惜しくダンスをしているP2を急かして、家中の鍵を閉めて、ローラにリードをつけて、キャッツを抱き外に出た。
Kaoluの車の後ろには、カエがおとなしく座っている。
「私は前に乗るから、P2はキャッツとローラと一緒に後ろに乗ってね。Allen
行きましょう!」
車はロサンゼルスの街を15分ほど走り、ビバリーヒルズを過ぎたあたり、ユダヤの人々が多く住む地域の一角で車を止めた。
カエとP2は、昨年の痛い教訓から言われる前に車から降りた。
キャッツは、驚いたことにP2の後ろから自分で車から降りた。
「ローラ、さあ行くわよ。どんなおやつが貰えるかな?」
おやつと言う単語に反応して、ローラは警戒しつつも車から降りた。
ここは動物病院の裏手の駐車場だ。周りを見渡しても動物病院の気配は一切感じられない。
ローラは車から降りて回りを見まわすと、いきなり固まった
ウオン、ウオン、キャンキャン、お~お~~~~
まるでこの世の終わりであるかのように、ローラは泣き始めた。そして閉めたドアを開けて車に乗ろうとした。けれども、すでにAllenが鍵をかけて窓も全部閉めてある。ローラがいくら頑張っても車には戻れない。
「さあローラ、すぐ終わるから、頑張ろう!」
Kaoluは、足を踏ん張って一歩も動かないという姿勢のローラを抱き上げようとした。けれども、ローラは一歩も引かない。

「やれやれ、去年よりも学習しているな。カエ、手伝って。」
Allenがカエを連れて、ローラの横にしゃがんだ。駐車場の硬いアスファルトに爪を立てて動こうとしないローラの足を1本ずつ丁寧に動かして抱き上げた。そして、すかさず、Kaoluが、ローラの口にローラお気に入りのぬいぐるみを突っ込んだ。一瞬ローラは怯んだ。
「Kaolu、さあ行こう。先に行って受付をしてきて。僕がローラを連れて行くから。」
去年は、このタイミングで、P2とKaoluがローラに突き飛ばされたのだ。
その教訓から、今年はローラを抑え込むのはAllenの役割になった。
Allenに抱きかかえられて、ローラは観念したらしい。お気に入りのおもちゃを口に入れながら目には涙を食べている。
カエも、急ぎ足で動物病院のドアに向かった。その後ろから、キャッツを抱いたP2が追いかけてくる。はたから見るとあまりにも滑稽だが、当人たちは真剣そのものだ。
「Allen、受付は終わったわ。先生が外で予防接種をしてくれるって。」
去年は、看護師3人がかりで押さえ付けて予防接種をしたのだ。病院側も学習している。
ローラほどの中型犬になると、暴れると病院の高価な備品を壊してしまう可能性もある。今年は、外で注射をすることにしたらしい。


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