【KaoluとKaoru】
「随分遅くなってしまった、それで何か分かったかい?」
Kovalenko教授が戻ってきた。
「教授、このArmieは、教授がおっしゃっていた通り、かなり古いAIデータをロボット脳として格納していますが、Armieは年齢という概念を知っています。あと、Armieが探しているのはKaoluではありません、Kaoruです。」
「Allen、今なんて言ったかね?」
「ですから年齢という概念を…」
「いや、その後だ。」
「ああ、Armieが探している、と言うより、Armieが知っているのはKaoluではなくKaoruです。日本の名前ですね。」
Kovalenko教授の顔が強張った。そして、しばらくの間、遠くを見て考え込んでいた。
「もしかしたら、いや、それしか考えられない…」
「Allen、Kaolu、 10日ほど時間が欲しい。その間に、Armieのボディを可能な限り治してあげてくれないかな?」
(もしかして、パパ、LとRの区別が苦手だから、私の名前の綴りも間違えたのかしら…)
Kaoluは、前々から気になっていた自分の名前の珍しい綴りについて聞きたいと思ったが、今はそれを聞くタイミングではないと思い口を閉ざした。
そして、Kovalenko教授からパパの顔に戻り、ピカピカになったキャッツを見てほほ笑んだ。
「キャッツ、オイル風呂は気持ち良かったかい?」
「Kaolu、カエもP2もオイル風呂が終わっているはずだ。迎えに行ってあげなさい。私は少しやることがあるから、今日はしばらくここに残るよ。」
Kovalenko教授とAllenの会話を興味深げに聞いていたキャッツが割り込んできた。
「パパ、僕、オイル風呂に入っている時に夢を見たよ。パパが初めて僕の電源を入れてくれた時のこと。それで、僕は今3歳だよね?」
Kovalenko教授は、自分の歳を確認しようとしているキャッツのピカピカの尻尾センサーを触りながら、優しく答えた。
「キャッツ、良く分かるね、良い子だ。」
目を丸くしながらその会話を聞いていたKaoluは、
「パパ、あっ、教授、キャッツは年齢を完全に理解しているの?凄いわ、つまりキャッツの記憶は月日の積み重ねと正確に連動しているの?」
「教授、キャッツは分かるのですが、Armieは何故年齢という概念を知っているのでしょうか?」Allenが口を開いた。
「それは…話せば長くなるが、いたのだよ、年齢という概念はAIには必要なくてもAIロボットには必要ではないかと、かなり早い時から考えていた女性がね。」
Kovalenko教授はいつもの優しい顔に戻り言った。
「またゆっくり話をしよう!」
「早くAcimo Spaに行かないと、賢いP2は、Acimo Spaで遊び尽くして、Kaoluが見たことがないくらい闊達なロボットに変身してしまうぞ!」
【新生P2と仲間たちのダンス大会】
KaoluとAllenはAcimo Spaに急いだ。
「今日、何回往復している?良い運動だわ…」
Acimo Spaに入ると…
▽□▼□〇◎~、ルンルンルン!!
なにやら賑やかな音楽が聞こえてくる。
「なんなのこの音楽は?またダンスヒーリング、違うわね。ディスコ大会?」
「これは久しぶりに来たようだ。Kaolu、しばらく僕たち人間は観客だよ(笑)」
Acimo Spaの1階はロビーになっている。右側に治療やセラピーの受付、左側には人間が座れるソファなどが置いてある。そして、中央は広い吹き抜けになっているのだが…
P2とカエが、他のAIロボット工学部所属のAIロボットを誘って、ついでにセラピストアシモも誘い、ダンス大会をやっていた…

AIロボット工学部所属のロボットはapple社提供のスタイリッシュなものと、マイクロソフト社提供の武骨で少し古風なものの2種類。今はどちらのロボットも、楽しそうに踊っている。アシモは、歴史的に有名なアシモダンスを記憶しているらしく、Vの字になって見事な統一感だ。
「Allen、これは何が起こっているの?」
楽しそうにロボットのダンス大会を眺めているAllenは、しばらくそれには答えずにダンスを眺めていた。
「Kaolu、 AIロボットに学習させている研究者たちも100%原因を解明しているとは言っていないけれども、単純作業ロボットと違い、頭脳特化型のAIロボットにはある種のストレスが溜まるらしい。そのストレスを解消すると、うれしくてみんなでダンスを踊るという現象がこのAcimo Spaでは見られるんだ。もちろん、いつもじゃないよ。今日は特別盛大なダンス大会だ。きっと賢いP2がリーダーシップを取ったんだろうな。」
Kaoluは、初めて見る楽しそうに弾けているP2にしばらく目が釘付けになった。そしてキャッツを抱く腕が緩んだ瞬間、キャッツはKaoluの腕の中から飛び出してダンスの輪の中に入って行った。
ロサンゼルスの空はすっかり夜になったが、Acimo Spaだけはいつまでも賑やかな音楽に包まれていた。
そして、KaoluやAllenは、夜通し踊ると言って聞かないP2とカエを強引に連れ出して家に戻ったのは、夜中だった。
一人また一人と、管理者である学生に説得されて、ロボット達はAcimo Spaをあとにした。どのロボットも楽しかった余韻が歩き方に出ている。
そんな賑やかな週末の夜更け、いつまでも皓々と明るいままなのはKovalenko教授の研究室だ。
「これか…AIノート保存協会」
日本語サイトの高度な検索は、KanjiやHiraganaが分からない教授には、最新検索ツールを使っても難しい。ホッとして椅子に倒れ込んだ時、作業台に座るArmieの姿が目に入った。
「Armie、もしかしたら見つかるかもしれないよ、Armieが探しているKaoruさんだ。」
(Kaoruさん…このロボットに何を託したのですか?)
Kovalenko教授は小さく呟いた。

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