AIハンドラー第6話

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【イスタンブール5日目~6日目】

翌日、Kaoluは久しぶりに自然に目が覚めた。
キャッツは?ふと気になり、机に目をやった。
今朝は、キャッツお得意のメモリーを歌わなかった。どうしたのかなと見てみると、机の上で子猫のように丸まって寝ていた。
(パパはキャッツの基本Behaviorを子猫として設定したのね、きっと)


「キャッツ、もう朝よ、起きて!」
Kaoluの声でキャッツは目を覚ました。
「あれ?僕はいつ寝ちゃったんだろう、ううん、僕は優秀なAIロボットだから寝るんじゃないよ、スリープモードに入るんだ!」
少し照れたように自己分析をしているキャッツが微笑ましい。
「キャッツ、あなたの充電ベースを持ってくるのを忘れたわ。キャッツは何日もつの?今日はまずホテルに戻って、あなたの充電ベースを取りに行きましょう。」

シャワーを浴びながら、Kaoluはふと気がついた。
(昨晩は、“私を探して”という夢は見なかったわ)
どうして?Kaoluは気になったが、それよりもキャッツの充電が切れてしまうことの方が気になった。素早く、昨日買った朝ごはん用のパンと果物を食べて、Kaoluはキャッツをポシェットに入れてホテルを出た。

「キャッツ、電車の中やホテルのロビーとかでは踊らないでよ…」
初めてキャッツを連れて地下鉄に乗ったが、キャッツは意外と大人しくしていた。グランドキャットホテルのフロントに入る前に、念のため、もう一度大人しくするようにと釘を刺した。
「僕はいつも踊るわけじゃないよ。昨日は、嬉しくて体が勝手に動いちゃったんだ!」
話しをしながら、Kaoluたちは、ホテルのロビーに入った。
「僕だよ、キャッツ。僕の充電ベースを取りに来たんだ。だから、また働きたいわけじゃないんだよ。」
Kaoluがフロントの人に声をかける前に、キャッツがうれしそうに話しかけてしまった。ホテルのフロントのスタッフも、うって変わった可愛らしいキャッツの姿にびっくりしつつも微笑んでいる。
「Kaolu様、私共の不手際で充電ベースをお渡しするのを忘れてしまっておりました。ちょうど連絡をしようかと話をしていたところです。けれどもそのポシェットがありますから、キャッツが充電切れになることはありません。ご安心ください。」
「え、このポシェットが充電ベースなの?」
「はい、キャッツはAIエージェントです。お客様の観光にお供をしてイスタンブールの案内をすることもできます。そのために、この特性ポシェットをお父様がお作りになられたようです。」
(なるほどね…)

充電ベースを受け取ってKaoluはその作りの巧妙さに感心した。基本設定が子猫のキャッツは、スリープモードに入ると丸くなって子猫のような恰好になる。そのキャッツの寝心地が良いような作りになっている。
「あら?何これ?」
充電ベースの裏面には、Kaoluが読めない東洋の文字が模様のように書かれている。
(キャッツ、子猫)
何という意味だろう?これ、漢字?
Kaoluは、ローマ字を使う外国語は幾つか話せるが、日本語や中国語は挨拶程度で文字は書けない。充電ベースの裏面の文字をKaoluは読むことが出来なかった。

Kaoluは取り敢えず、キャッツを連れて公園でのんびり過ごすことにした。
キャッツに何かやりたいことがあるの?と聞いたら、これまでずっと働きづめだったから(本当かしら)、遊びに行きたい!と主張した。
「よし、明日は遊園地に行こうか?」
それを聞いたキャッツの目が一段と輝いた。
その日は、ウクライナ出身のおじいさんがやっている市場の屋台にもう一度行くことにした。キャッツをおじいさんに会わせようと思ったのだ。ウクライナ語を流ちょうに話すAIロボットを見て、おじいさんはとても喜んでいた。Kaoluは、気前が一層良くなったおじいさんから、ウクライナ料理をたくさん買い込んだ。
「パパが子供の頃に食べたご飯は、こんなに美味しかったのね…」
Kaoluは、改めてアメリカの食文化の単純さに気が付き、世界は広いと改めて思った。

「キャッツ、ジェットコースターは乗れないんだって…」
あれに乗りたい!と、ジェットコースターを見て主張するキャッツがあまりにも可愛くて、たぶんダメだろうなと思いつつも、Kaoluはこの猫型ロボットをジェットコースターに乗せたいと係員に交渉したのだ。


「そうなんだ…」
キャッツは明らかに落ち込んでいる。
「キャッツ、メリーゴーランドはどう?ぐるぐる回って楽しいわよ?」
「うん、じゃあメリーゴーランドに乗ろう!」

「Kaolu、楽しいよ~、もっとぐるぐる回して~」
乗っているコーヒーカップは、自由にくるくる回すことができる。キャッツはそれが面白くてたまらないらしい。Kaoluは、回り過ぎて少し気持ちが悪くなった。
「キャッツ、これ以上回したら、AIロボットだって目を回すわよ。」
結局、キャッツはメリーゴーランドに3回乗った。そしてKaoluはへとへとになった。
ベンチに座り込んでぐったりしていたKaoluを尻目に、キャッツは楽しそうに周囲を見回した。
「あっ、猫だ!」
トルコの人たちは動物全般、特に猫に優しい。その遊園地のベンチの脇にも、猫たちが食べるであろうキャットフードを置くスペースがある。そこに2匹のまだ大人になりきっていない猫がやってきた。
目が回って疲れていたKaoluは、隣に座っていたキャッツがひょいとベンチから飛び降りるのを止めることができなかった。キャッツは、興味津々にその2匹の猫に近づいて行った。
「君たちは本物の猫だよね?」
キャッツは、真面目な顔をして英語で話しかけている。当然猫はわからない。2匹の猫はキャッツを無視して一生懸命ご飯を食べていた。

「ねえ~、本物の猫だよね?」
キャッツは、今度はトルコ語で話しかけた。
チラッと見るそぶりは見せたが、それでも猫はキャッツに反応しない。
「ねってば、僕はねえ、猫型ロボットなんだよ!」
キャッツが不自由な前足を上げて、一匹の猫の方にかすかに触った。
猫はようやくキャッツを認識したようだ。
黒猫と、トラ猫の2匹はとても可愛らしい。しばらくの間キャッツを凝視していたが、猫たちは食べ終わったら草むらの陰に歩いていってしまった。
「なんだ、本物の猫はしゃべらないんだ。」

「キャッツ、だめよ、勝手に動いちゃ!」
キャッツの姿がベンチの上から見えなくなって、Kaoluはキャッツを探した。
二匹の猫たちに全然相手にされないキャッツを見て、思わず笑ってしまった。
「ああ、何も匂いがしないからね、ロボットだってわかったんだわ。」
生き物は基本的に匂いと気配で周りを察する。ここはAIロボットが決して真似をすることができない領域である。
「キャッツ、あの子たちは、あなたがロボットだってわかったのよ。」
「どうして?」
「キャッツは臭いがないでしょ、それに猫は英語もトルコ語もしゃべらないのよ。」
「えっ、言葉を喋れないなんて、猫って頭が悪いんだね。」
「キャッツ!動物は動物同士のコミュニケーションを大事にしているのよ。人間は動物同士の会話には参加できないの。でも動物は仲良くなった人間には心を開いてくれるのよ。そこには言葉は必要ないわ。キャッツ、頭が良いことは動物のコミュニケーションには全く役に立たないのよ!」
(少しきつく言っちゃったかな?)
キャッツはKaoluの言葉を聞きながら少し考え込んでいるようだった。

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