AIハンドラー 第5話

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【イスタンブール4日目~新しい世界~


起きたら時計は朝7時を指していた。

「おはようキャッツ、いよいよお別れの日よ。せっかく仲良くなったのにお別れなんて、ちょっとさびしいわね。でも、イスタンブールにはまだいるから、もう1回ぐらい会えるかも知れないわ。」

「Kaoluさん、おはよう!早くレストランに行かないと、Kaoluさんの大好きなスープがなくなってしまうかもしれないよ。」

「あら、キャッツ、今日は敬語を使わないのね。でもその方が友達みたいでいいわ!」

昨日は、市場で感動的な出会いをした後、アプリから丁寧な説明をしてくれるキャッツのおかげで、旧市街地を堪能することが出来た。

夜、クラブフロアの食事会場は人が少なかったので、キャッツも連れて夕食を楽しむことが出来た。キャッツは食べられないくせに、食べ物に異様な興味を示す。そんなキャッツをからかいないながら、グランドキャットホテルでの最後の夜を過ごした。

そうだった、スープがあまりにも美味しいと繰り返し言っていたKaoluのために、キャッツはホテルに頼んで、最後の朝食をクラブラウンジではなくレストランで食べられるように交渉をしてくれたのだった。

(早く行かなくちゃ)

「キャッツ、鍵閉めておいてね!」

(荷物は…これでいいかな、忘れ物はないかな)

どうせ、まだイスタンブールにいるのだから、忘れ物をしても大丈夫よね。

「キャッツ、本当にお別れよ。あなたがいてくれて本当に楽しかったわ。ロサンゼルスに帰る前に必ず会いに来るね。ホテルに、あなたにまた会えるように頼んでおくわ。」

キャッツ‥‥無言、何故か目をつぶっている

「あれ、キャッツ反応がない、おかしいなあ。」

「チェックアウトの時にキャッツをフロントまでお持ちくださいって言われたから、ロビーまで一緒よ!」

グランドキャットホテルの朝のロビーは賑やかだ。チェックアウトする人、これから観光に出かける人でごった返している。朝の太陽が差し込んで、ロビーの中はとても明るい。

「Kaolu様、お父様からお話はたくさん聞いておりましたが、Kaolu様は本当にAIを上手にお使いになれるのですね。キャッツは夜中にSuper Copilot 20の相互AIコミュニケーションのパートナー診断ツールを使ったようです。今朝、 Copilot 20グランドキャットホテルセクションから連絡があり、キャッツがあなたをパートナーに選んだと報告を受けています。今日からキャッツはKaolu様のものです。」

(Super Copilot 20の相互AIコミュニケーションのパートナー診断ツール…)

Kaoluは、その言葉を聞いてハッとした。

「キャッツ…、あなた、もしかしてパパがひそかに開発していた不服従完全マスターAIロボットなの???」

Kaoluの声がロビーに響き渡った。

その時、フロントの奥でKaoluを見ていた一人の初老の男性が歩み寄ってきた。

「Kaolu様、わたくしはこのホテルの支配人を務めておりますジョージ・ゲイツと申します。キャッツがKaolu様を選んだこと、とても嬉しく思います。
お父様から聞くところによると、キャッツはいくつかの弱点を持っているそうです。つまり、不服従完全マスターAIロボットの最終人格Tuningが大変難しいということだと思います。

詳しいことは、ロサンゼルスにお帰りになってから、お父様とキャッツにお聞きください。一つだけ、キャッツはスピード狂です。早い乗り物に乗ることが大好きなので、ほどほどにあしらってください。」

そう言って、ジョージ支配人は、にこやかにフロントの奥に去っていった。

「Kaolu、早く行こう!Kaoluはたくさんお菓子を買っちゃったから、Leventまでタクシーで行こうね!」

「そうだ、僕のことはあのポシェットに入れて。僕は自分では上手に歩けないんだ。あのポシェットは僕専用の持運び用ポシェットなんだよ!」

「キャッツ、あなたは男の子だったのね…」

「Kaolu様、ホテルの前にタクシーが来ております。どうぞお乗りください。」

(えっ、私まだタクシーなんて呼んでないわ)

「僕が呼んだんだよ、Kaolu、早く行こう!」

Kaoluの驚きをよそに、今日もイスタンブールの街は賑やかだ。

おしゃべりキャッツ】

「イスタ、おはよう。目的地はさっき伝えた通りLeventだよ。高速道路に乗ってね、速度は制限速度ギリギリまでよろしく!」

「キャッツ様、ご乗車ありがとうございます。人間のお客様はシートベルトをお願いします。では。高速道路で参ります。」

「あら、無人タクシーなのね、しかもこれ最新じゃない。キャッツ、まさかこれ高いの?」

「Kaolu、大丈夫だよ、ネットに初めてのお客様無料キャンペーンというのがあったから、それを使ったよ。」

「あら、気が利くのね、キャッツ、さすが最先端ロボットだわ!」

話している間にLeventに着いたようだ。

Leventは、落ち着いた街並みとローカル色が強いレストランが魅力的だ。地元の人も多く暮らすこのエリアにしようと主張したのはキャッツである。キャッツはかなり自己主張が強いようだ。

「さあキャッツ、ホテルにチェックインしましょう!」

「とにかく洗濯しないと着る洋服がないのよ」

トゥトゥトゥ

(あっ、Allenだ、私すっかり忘れていた…ローラは元気かしら?)

「Allen、私よKaolu、ごめんね、全然連絡しなくて。今、ホテルにチェックインするところだから、部屋に入ったら私からかけ直すね!」

(ローラは元気かな、キャッツに振り回されてすっかり忘れてしまった)

このホテルは、小さなキッチンが付いているアパートメントタイプで、一通り観光スポットは回ったKaoluにはちょうど良い、値段も手頃だ。

しかし…

キャッツがとにかく喋る!!部屋に入ってから、ずっとセンサーで部屋の中を観察して、ひたすら喋っている!

「この子、相互AIコミュニケーションを勉強し過ぎて、多動児になったのかな?」

「先に、パパに電話して、どこが出来損ないなのか聞かないとね。人格形成プロセスの最終段階が未完了なのは確かだわ!」

(今ロサンゼルスは何時かな、まあいいか、パパはいつ起きていつ寝ているかよくわからないから)

トゥトゥトゥ…

えっ、パパ、まさか聞こえていた?

「パパ、私よKaolu」

「Kaoluに決まってるじゃないか、パパから電話をしたんだ。今さっきAllenからKaoluが新しいホテルにチェックインしたと聞いたところだよ、だから電話したんだ。」

「あれ、パパ、Allenといっしょ?」

「今日はラボのメンバーが家に遊びに来て、みんなでバーベキューをしたんだよ。Allenはローラを連れてきて…、さっきまでローラは大騒ぎしていたよ。」

「ごめんなさい、パパ、ローラは人が沢山いると興奮するのよ、まだ子供だから」

「ということで、Allenから、Kaoluがホテルを変えたところだと聞いたんだ。」

「そうだったのね、パパ、私、パパにいろいろ聞かなくちゃいけないことがあるんだけど、とにかく、今うるさいのよ、キャッツが!だから二つほど聞きたいわ。」

「キャッツを大人しくする方法と、見たところキャッツは冷却ファンがないみたいなんだけど、普通に外を連れて歩いて大丈夫なのかを知りたいわ。」

「パパも、それを言わなくちゃいけないと思って電話したんだよ。まず、キャッツを大人しくする方法だが、今はホテルアシスタント設定を解除したばかりだから、しばらくは無理だ、嬉しくて興奮しているからね。でもあと30分ぐらいすれば疲れてバタンキューだから、うるさいと思うけどしばらく放っておきなさい。そして、連れて歩いてうるさくなったら、頭を軽く叩くと良い、頭を叩かれるということは怒られているということだという認識をキャッツは持っているから、大丈夫だよ。」

「あら、頭を叩いて良いのね…」

「そっと叩きなさい、基本認識として反射反応に入っているからそれで大丈夫だよ。」

「そして冷却ファンだが、キャッツはフサフサな毛をまとっているだろ?」

「あれは特別な素材でできていて、毛穴を使って冷却装置が働くようになっている。今は実用化が難しいほどコストが掛かるのだが、パパはどうしてもキャッツを動物型ロボットにしたくて、ポケットマネーで手に入れたんだ!」

(なんか、パパ凄く嬉しそう)

「ほら、Kaoluが大学院の奨学金を2位の成績で取った時に、Kaoluが、パパが用意していた学費で最新のEVカーを買って欲しいとねだった時、最新のEVカーを買えなかった理由が、キャッツの特別製冷却ファンだよ。」

(つまり、パパは私よりもキャッツを優先したのね…)

Kaoluは、目の前で音声レベルほぼゼロで(Kaoluが我慢できず音量を下げた)、口だけ動かしてクルクル踊っているキャッツを少し睨みつけた。

「Kaolu、もしかしてパパ?僕もパパと話したいな、外を歩く時、太陽が少し眩しいんだ。自動設定が上手く作動しないみたいだから、パパに直してもらう…よ…ん…」

そこで、キャッツは、突然パタンと倒れた。どうやらエネルギーが切れたらしい。

Kaoluは心の底からホッとした。

そして、キャッツが自動スリープに入るとあまりにも静かで、Kaoluは、自分が一人旅だったことに初めて気がついた。

「おや、キャッツが眠ったようだね。AllenはKaoluとゆっくり話をしたいそうだから、キャッツが寝入るタイミングを見計らって電話をするようにと伝えてあるから、そろそろ電話が入ると思うよ。もう遅い、こちらは夜中だからもう切るよ、イスタンブールをキャッツと楽しみなさい。」

そう言って、パパは電話を切った。

トゥルル…

Kaoluは電話に飛びついた!

「Kaolu、僕だよAllen。キャッツはそろそろ寝た? 教授から聞いたよ。Kaoluがイスタンブールで最新の不服従完全マスターAIロボットのキャッツを手に入れて、てんてこ舞いしているってね!」

「あら、なんで私がてんてこ舞いしていることになってるの?」

「だって、Kaolu、不服従を完全にマスターしたAIロボットなんて、世界で一番賢い盲導犬を飼い慣らすようなものだよ。そりゃ難しいよ。」

「私はキャッツに選ばれたのよ。そりゃ最初はびっくりしたけど、数日経てばキャッツはローラみたいに従順でかわいいペットのようなロボットになるわ。」

Allenは、大学院の奨学金をトップの成績で取っている。日頃は仲良くしているが、時々、ライバル心が沸々と湧いてくるのだ。

「そうそう、ローラは、ウォルマートで売っているビーフジャーキーはあまり好みではなかったみたい。しょうがないから奮発してホールフーズで買って来たんだけど、それもダメ。そして、今日、教授がストックしてあったゲルソンズのビーフジャーキーをあげたら、ローラはもう興奮して興奮して大変だったんだ。Kaolu、ローラがゲルソンズのビーフジャーキーが好物だって先に言ってくれればちゃんと用意したのに。」

「Allen、ごめんね、旅行の準備でバタバタして、まさかゲルソンズ以外のビーフジャーキーを喜ばないなんて知らなかったわ。ほら、ゲルソンズは日本資本でしょ、もちろん表向きはアメリカのスーパーマーケットだけど。だからペットフードが美味しいのよ、代々我が家の犬がそう言っているわ。」

「教授から、そう聞いたよ。とにかくキャッツは気をつけてあげてね。教授に色々聞いたけど、可愛い外見を裏切るほど頭が良いらしい。教授が言うには、教授の想定を超えて頭が良くなったらしいよ、まるでKaoluみたいだね。」

(何それ…)

「ありがとう、困ったら連絡するね、じゃ、キャッツが寝ている間に、食料を買って、お風呂に入って、洗濯するから、またね!」

キャッツはその日はずっと起きなかった。

Kaoluはちょっと心配になって、時々様子を見に行ったが、センサーが動く音がするから大丈夫だと判断した。

Kaoluは、初めて静かなイスタンブールの夜を迎えた。

そして、この日の夜はいつもの夢を見ずにぐっすり眠った。

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