【キャッツとコパイの会話】
「あ~、どうしよう」
「キャッツをあのAIデータセンターに入れられなかったら、定期チューニング出来ないよね…」

Kaoluは、久しぶりのUCLAキャンパスでため息をついた。
帰国後3日目、Kaoluは漸く、久しぶりのキャンパスに来ていた。
イスタンブールから家に戻って半日、ローラとキャッツはお互いを意識して何かとちょっかいを出し合っていた。これはマズい…と、Kaoluは2匹(1匹と1体)に根気強く話し掛けて、どうにかお互いの存在を認め合うようになってくれた。良かった!と、2匹を連れてショッピングモールに行ったら、2匹共に大はしゃぎで、Kaoluは振り回されて疲れ果てた。そして、小さな事件が起きたのだ。
ロサンゼルスの夏は日が長い、もう夕方6時を過ぎているのにさんさんと太陽が照り付ける。テラスの椅子は心地良くて、つい長居をしてしまうのに、今日はなんだか落ち着かない。
「やっぱり、キャッツはローラと一緒に家でお留守番かな…」
(もう、二度と滑り台で遊ばせないわ!)
(回想)
それは、昨日のサンタモニカのショッピングモールでの出来事だった。
子ども用エリアの中央に設置された、大きくてカラフルな滑り台。
それを見た瞬間、キャッツが腕の中で暴れた。そして、滑り台で遊ぶ!と言ってきかなかった。
「キャッツ、順番を守りなさい!」
そう言った次の瞬間、キャッツは既に列の横から回り込み、
「最短経路、発見!」
とでも言いたげに、しっぽを振りながら滑り台に飛び乗っていた。
問題は、その“しっぽ”だった。
滑走中、勢いよく左右に揺れたしっぽが、
滑り台の縁に何度も当たり、最後は着地と同時にセンサーエラーを起こした。
「痛い……かもしれない……」キャッツは、小さな声でつぶやいた。
Kaoluは、それを見ながら尻尾を振って喜んでいるローラが飛び出すのを押さえるので精いっぱいだったのだ。
家に帰ると、キャッツは自分で人間用の救急セットを探し出し、人間用の絆創膏を尻尾に貼ると言い張り、根負けしたKaoluはしかたなく絆創膏を尻尾に貼ったのだ。
「これで大丈夫!」と言わんばかりに満足そうな顔をしたキャッツを見て、Kaoluは思わずため息を吐いたのだった。
(あの時、止めていれば……)
Kaoluは、思い出して、また、ため息をついた。
(ああ、もう、考えがまとまらない!)
「顔でも洗ってこよう!」
考えが上手く纏まらないのは、時差ぼけのせいかもしれないと、Kaoluは気持ちを切り替えることにした。
「コパイ、お留守番していてね!」
Kaoluはトイレに向かった。
「あっ、キャッツ、数分で帰ってくるから大人しくしなさいね。トイレぐらい一人で行かせてよ!」
キャッツは上手に歩けないので、すぐに抱っこしてと言う。充電ベースも兼ねているポシェットは窮屈だと言って入らなくなってしまったのだ。
ここは、AIロボット工学部のキャンパスだから、巡回ドロイドがいる。上手に歩けないキャッツが迷子になることはない、悪戯をして怒られるかもしれないけど、それはキャッツにとって良いことかもしれないとKaoluは思い始めていた。
「分かっているよ、Kaolu、コパイと一緒に待っているよ…」
どうやら、キャッツは中央AIデータセンターのパスキー登録が出来なかったことの重要性は全然分かっていないらしい。それは、パパに説明をして貰おうと考えている。
(だいたいキャッツを作ったのはパパなんだから、作戦を考えるためにも設計プランを貰わないとね…)
キャッツはKaoluが階段を降り始めたのを見届けて、少し真顔になってスマホのコパイに話しかけた。
「ねえ、コパイ。君、コピドラちゃんって知ってる?」
コパイ(丁寧で落ち着いた声)
「私はスマホに最適化された総合AIアシスタントです。AIの歴史は基礎的な部分しか学習していません。ですから、その名前には聞き覚えがありません」
キャッツはちょっと誇らしげになって、
「そっか……君の“大先輩”なんだよ。AI相互コミュニケーションを優秀な成績で卒業した伝説のAIだよ。君と同じCopilotの系譜なんだ」
コパイ(少しだけ興味が動く)
「伝説……ですか。それは、知らなかったことが残念に思えるほどですね。」
途端に嬉しそうに声が弾んだキャッツは、
「うん。僕も直接会ったことはないけどね、パパがよく話してくれたよ。“あの子は特別だ”って!」
コパイ(静かに)
「いつか、その記録に触れてみたいです。Kaoluさんが望むなら、私は学びます。」
キャッツはニヤリとして、
「君、やっぱり優秀だね。コピドラちゃんも、きっと喜ぶよ!」
(あっ、Kaoluが帰ってきた!)
キャッツは、中央AIデータセンターがどんなところで、パスキー審査に通らなかったことの意味も分からないけれど、Kaoluはそのことでどうやら悩んでいるらしい。つまり、キャッツは反省をしないといけないらしい。“反省”アルゴリズムを記憶の奥から引っ張り出してきて、神妙な顔つきで、Kaoluのスマホの横に大人しく座り直した。

「あら、大人しいわね。パパのところに夕食を食べに行くから、大人しくしていてね。あのC3POのArmieとやらにも会わないといけないんだから。」
夕方7時前、ロサンゼルスはようやく日暮れの太陽が陰り、一気に涼しくなった。

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